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「寺田屋を出て行ったぁ!!?」
「ええ。今朝早くにね」
「何でじゃ!?
あの娘には行くあてなどないじゃろっ!」
翌日の昼前、ようやく目を覚ました坂本はお登勢とお龍に昨晩の話を聞いている。
それによると、坂本が一人で駕篭に乗って帰った後、しばらくして千絵も徒歩で戻ってきた。
二人とも血まみれで、一体何があったのか尋ねると、
長州藩士の遺体を藩邸まで届けて、その時お礼にと酒宴を開いてくれたので遅くなり、
更に坂本が酔いつぶれた為、坂本だけ先に駕篭で帰らせた。
という風に答えたそうだ。
その後、風呂に入ってお登勢が用意した着物に着替えると、突然寺田屋を出て行くと言ったらしい。
「それで理由を聞いたら、知り合いの料亭で今日から働ける事になったから、急で申し訳ないけど、おいとまするってさ。
まあ、千絵さんはお客さんだし、引き止める理由もないけどさ」
そう言いつつ、なんだか釈然としない表情のお登勢。
「なんか、拍子抜けしちゃったわ。
お登勢さんの話を聞いた限りでは、千絵さんはお客さんとかお女中とか関係なく、ずっと寺田屋に居るものだと思ってたもの」
昨日、千絵に初めて会ったお龍までもがそう言った。
しかし、二人とも釈然としないものの、そういうものか。
と、割り切ろうとしているようだ。
だが坂本はそうは思えない。
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