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「この手紙といい、今朝の態度といい、何だか急によそよそしくなった気がするね。
まあそれ以上に、いきなり出て行くって言ったのが気がかりだけど…」
「確かにの。それに、そんな大金があるなら、千絵さんはもう少しマシな身なりをしていた筈じゃしな」
「は?どういう事よ??」
お龍以外の二人の頭に、出会ったばかりの千絵の姿がちらつく。
あの時の千絵の格好といえば、つぎはぎだらけの着物に鉄刀を背負い、刀が無ければ本当に乞食と変わらない姿だった。
そんな娘が小判を持っていたとは、どうしても信じられない。
「そこが気になるところなんだよ」
「へぇ。それは確かに気になるわね…」
お登勢とお龍が疑問に思っていると、坂本は昨日の出来事をふと思い出した。
「そういえば千絵さんは、一人で歩いて帰ってきたんか?」
確かもう一人、長州藩邸から一緒だった男がいたはず。
(あいつはどうした…?)
「あぁ。一人だったよ」
お登勢の答えに、坂本の疑問が確信に変わった。
「すまんが、ちょっと出てくる」
「え?今日は護衛の仕事はないって…」
腰に刀を差して出て行く坂本に着いて行こうとするお龍だが、お登勢に肩を掴まれて止められる。
「お龍。一人で行かせてやりな」
お登勢の真剣な表情を見たお龍は、渋々ながら引き下がった。
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