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昼過ぎになって、坂本はようやく昨日の長州藩邸に着いた。
格子ごしに門番に話しかけると、その門番は坂本の顔を覚えているようで、すぐに中に入れてくれた。
「坂本殿、昨晩はとんだご無礼を」
坂本の応対にあたった藩士がそう言う。
どうやら吉田稔麿あたりの藩士が昨日の誤解を解いてくれたようで、昨日の態度とはまるで違う。
「それで、本日はどうされましたか?」
「いや。実は中岡に用があるんじゃが…」
「ああ。そういえば、坂本殿は中岡さんと同郷の方でしたね」
少々お待ちを。
坂本を藩邸の一室に通した後、藩士は中岡を呼びに廊下に出て行った。
それから少しして、中岡が部屋にやって来た。
「なんだ、坂本か。一体何の用だ?」
「とぼけるとは、いい度胸をしとるな。おんしは」
相変わらず愛想のかけらもない中岡に、坂本は千絵の事を尋ねる。
「千絵さんが持っていた小判。
あれは、おんしが渡したもんじゃろう?」
「なんだ。あの嬢ちゃん使わなかったのか。
せっかく人が親切に恵んでやったというのに」
ハァとタメ息をつきながら、そんな事をサラリと言う中岡。
この男と居たら、なんだか馬鹿にされているような気持ちになるが、そこはグッと堪える。
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