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レインは自分の後ろにそそくさと隠れた男の子をそっと前に出すと、
「風の知らせる天子を連れて参りました。」
と軽く礼をしながら言った。
「あぁ、ご苦労じゃった。」
それから、テプリの顔というかは目を覗き込みながら、
「おぬし、記憶を無くしておるな。いいや記憶だけじゃない、言葉も感情も。そして、真名も。」
少し怯えながらコクコクと頷くテプリに、
「そうか、おぬしも辛かったのう。」
と、テプリ自身でさえ知らないことを見たのか、少し悲しそうな顔で言った。
「それではおぬしに真名ではないが、真名にほど近い名を与えよう。」
そう言って、白髪の老人は手を記憶を無くした少年の頭にかざすと、フゥと息を吐き、次に息を吸った刹那、まるで言葉が生きているかのように、息に乗せ、
「“パウク”(奪われた真珠)」
と、そう言ったのだった。
それからというもの、レインの下についたパウクはいつしか魔法を操るようになり、やがて地の柱を担うようになった。
こうして、十年もの間空席だった地の柱が埋まるに至ったのだった。
その日の空は、テイジー国のはずれにある、あの海岸のようなエメラルドグリーンに輝いていた。
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