10人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、くわえようと口をガバッと開けた瞬間、レヴィは思った。
――このまま挟んだら死んでしまう!
と。つまり、サメのように鋭い歯列がこの時ばかりはとても邪魔になってしまったのだ。
しかし、他の方法が思いつくわけでもない。せっかくここまで来たというのに何も出来ない自分の無力さを嘆いた。
ふと、
――そうだ、魔法を使おう!
と思ったレヴィの目は今度は青く染まり、代わりに体の横のラインが、赤と緑の二本になった。
それから彼の言葉には魔力が溢れるようになる。
『コウに息を。』
と言えば、流されながらも呼吸が出来るようになり、意識がはっきりしてきたコウに、
「僕の背中に掴まって。蒼瀬の都まで連れて行くから。」
と言うと、コウは首を横に大きく振った。
――私、帰らなくちゃ。
とコウの心の声が深海に伝わり、そしてレヴィに伝わる。今のコウにただの言葉は通じない、と感じ取ったレヴィは今度は頭に働きかける。
『分かった。でも、このままじゃ余計に帰れない。一回、蒼瀬の都に戻ってから考えよう。』
「・・・・・・。」
それに返事はなかった。
しかし、プルプルと震えながらレヴィの背中にしがみついた事で、その意味が分かった。早く帰りたい思いとどうしようもない現実が、彼女を震わせていた。ある意味、感情を押し殺すようなそんな印象を受ける。
しかし、一度戻る以外に選択肢はなかった。だから、レヴィもコウも其処から一言も話さずに、蒼瀬の都へと戻った。
最初のコメントを投稿しよう!