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すると、どうしたことか、レヴィが白銀に光り出したのだ。その光はまるでスポイトのように、しゅるしゅるとレヴィから抜けていき、今まで孤独を代償に培ってきたレヴィの根源にあった力が丸く集まったのだ。その凄まじい力がこの嵐をトントンと鎮めたのだった。
しかし、それはレヴィのように無限の力ではない。レヴィから取り出した、有限の力にすぎないのだ。それを誰もが知ることはなく、あるいは神のみぞ知るところとなった。
無くしたはずの力をとうとう本当に無くしてしまったレヴィは気を失ってしまった。そのまま遥か遠くへ流されて、遂にはテイジー国の白い砂浜の上に打ち上げられた。
嵐は全世界の海を荒らした為に、この場所もまた例外なくひどい有様だ。海岸付近の街の人は前もって避難していたため、生きている人はおろか死人ですら1人も居らず、そこにいたのは海から打ち上げられた1人の元は人ではない青年だけだった。
意識はなく、呼吸も定かでない。あるいはもう死んでしまっているかもしれない。
そこにフード付きの長いマントを羽織った男が姿を現した。
「風の知らせる天子がいました。」
と言って倒れている青年に近づくと、
「風を‥‥‥」
と言って、彼の口から風を送り込んだ。漸く呼吸が出来るようになった青年は、そっと意識を取り戻し、目を、そっと開けたのだ。
「君を探していたんだ。やっと見つけたよ。」
と言ったマントの男を見て、倒れていた青年は、小首を傾げた。
「あぁ、言葉が分からないんだね。」
と言うがやはり伝わるわけもない。すると、倒れていた青年はまるで赤ん坊のように、
「アーァ~‥‥」
という声を発した。マントの男はそこでやっと悟ったのだった。
「そうか、君は全てを失ったんだね。記憶も言語も、何もかも。」
そうしてそっと頭を撫でれば、決して今の状態の彼には、その意味すら分からない涙が一筋落ちた。
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