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龍臥が今日から住むアパート…
各階3部屋ずつある二階建ての茶色いアパート…
建物そのものが浮浪者のような空気をかもちだし、風が吹いたら「待ってました!!」と言わんばかりに倒れそうである。
そのくせアパートの名前は《新姉妹荘(シンシマイソウ)》と書いてあるから微妙に気が引けた。
(俺…男やのに、住む場所は姉妹かよ)
アパートの脇で建物を見つめながら深い溜め息を吐くと、一階の左端一号室のドアがギギギと音をたてながら開き、中から90歳は軽く超えてそうな婆さんが出て来た。
すでに辺りは薄暗く、街灯も少ない。
切れかけたアパートの電灯が消えたり点いたりを繰り返していた。
そんなジャストミートなタイミングで現れた婆さんが一瞬龍臥の目にはヤマンバに見えた。
ゾッとしたのも束の間、立ちすくむ龍臥の存在に気付いた婆さんがしわくちゃな顔を限界までしわくちゃにして笑顔を作り胸元辺りまで手を上げた。
『ひゃひゃひゃひゃっ♪もすかして兄しゃんが今日から引っ越して来るて言う子じゃろか?あたしゃ新姉妹荘の大家のウメじゃて』
胸元まで上げた手は携帯のマナーモードに負けないくらいのスピードで小刻みにプルプル振るえていた。
『あ。大家さんすか。自分今日から世話んなる龍臥って言います。宜しくっす』
龍臥はぺこりと軽く頭を下げると簡単に挨拶をした。
『ひゃひゃひゃひゃ。若ぇのにしっかりしてる兄しゃんじゃの。そんなに堅苦しくなりゃんでえぇから気軽に…ふぁんふぇほひぃふぇふへはら…』
しゃべってる途中で入れ歯が落ちたらしく、拾い上げて再び口を開いた。
『気軽になんでも聞いてくれたらえぇからのぉ♪』
婆さんは何事もなかったかのようにしゃべり終えると、ケラケラと笑った。
(『新姉妹荘』…と言うより『死んじまい荘』な婆さんやな…)
『あざっす。ほな自分さっそく部屋に行きますんで、また』
軽く手を上げ苦笑いを浮かべたまま再度頭を下げた龍臥は錆びれた鉄製の階段をカンカンと上がって《202》と書かれた部屋へと鍵を開けて入った。
暗い部屋の中を手探りで電気のスイッチを探し当て明かりを点けると、何もない殺風景な四畳半の部屋が現れた。
無造作に荷物を置くと畳の上に雑魚寝した龍臥はぼんやりと天井を見上げる。
古い建物で壁が薄いせいか、時折下からは「ひゃひゃひゃ」と言う笑い声が聞こえて来て、いつしか婆さんの笑い声を子守唄に眠りに落ちていた…
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