158人が本棚に入れています
本棚に追加
…どれほど眠っていたのだろう…
大声を張り上げる男の声と、それと同時に勢いよく扉を叩く音で目が覚めてしまった龍臥。
目を擦りつつ携帯を開くと夜もまだ足を踏み入れたばかりの8時頃だとわかった。
ドンドンドンッ!!
『開けんかいコラ!ワシから逃げられると思ってんのかアホンダラが!!』
ドンドンドンッ!!
扉を叩く音が次第に激しさを増す。
(チッ。誰やねんやかましいのぉ…)
めんどくさそうに起き上がった龍臥は玄関を開き顔を出した。
見るとどうやら隣の203号室の前にスーツを着たホスト風のチャラチャラした若い男が立って居て、しきりに扉を叩いている。
『さっさと開けろやクソ女が!扉ブチ破るぞコラーッ!!』
ドンドンドンッ!!
なにかのトラブルであろう。
モメてる内容は知らないが、さすがに常識はずれで近所迷惑な輩であることは確かだった。
『うるしゃーぞクソガキがーっ!!』
あまりのうるささに大家のウメが外に出て来て下から叫び上げた。
その姿は勇者そのもので、手には丸めた新聞紙を持ち、頭には鍋をかぶっている。
(あの婆さん…ゴキブリでも退治するつもりでいるんやろか…)
龍臥は目が点になっていた。
『んじゃコラ糞ババア!!新聞紙でなにがしたいんだ!明日の朝刊に載せられたいんか老いぼれが!!』
スーツの男が上からウメに怒鳴り脅す。
『ひぃ!!』
大声にビックリしたウメは肩をすぼめた。
『汚ねぇゴキブリ潰すのには丸めた新聞紙が一番ってことなんちゃうか?』
完全に扉から出た龍臥がスーツの男に横やりを入れると、下に居るウメに目線を移す。
『あ?テメェ俺に言ってんのかコノヤロー!!』
スーツの男が龍臥の方へと歩き出し、目の前まで来ると龍臥の胸ぐらを掴んだ。
しかし龍臥の目線はウメを見ている。
『おいコラなんとか言えやカス野郎!!』
見上げたウメが龍臥に目線を合わせたまま握りしめた新聞紙を高らかに振り上げると叫んだ。
『新姉妹荘の龍臥の力、見せてやれーーーい!!』
婆さんの滑舌が悪いせいか、なぜか「死んじまいそうな龍臥の死から…」と聞こえたが、GOサインを貰ったと無理矢理解釈して目線をスーツの男に合わせるのと同時に右のコブシが相手の顔面にメリ込んでいた。
『ぐがっ!!』
壁にブチ当たりよろめいたところに左のコブシでアッパーを入れると勢いよくフッ飛び、通路にブッ倒れた。
最初のコメントを投稿しよう!