イケナイコト

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 「恭一さん」  小さく主任の名前を口にする。    静か過ぎるオフィスではきっと彼に届いただろう。  声色に含んだ私の感情までもが伝わったかも知れない。  無言のまま主任は顔を上げて、初めて見せる優しい表情で私を見詰めた。  私を縛る鎖は外れてしまいそう。  いや、外してしまいたい。  「恋と愛の違いって何だと思いますか?」  疼き出す感情をやっとの思いで抑え込む。  まどろこしい言葉なんてなくても、手を伸ばせばきっと簡単に届いた筈。  だけど、  まだ。  もう少しだけこの雰囲気に溺れていたい。
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