第一章-混乱、そしてまた混乱-

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松浦はただもたれて座るだけで、傷口を押さえようとはしていなかった。 すぐさま相田はポケットからハンカチを取り出し、傷口に当てた。 ハンカチはみるみる赤くなり、白いハンカチは真っ赤に染まった。 止血しようとYシャツに手をかけると、松浦が腕をつかんだ。 「はなせ松浦。早く止血しないと…」 力を込め手を払おうとするも、松浦の手はびくともしなかった。 「大丈夫だろ…。死ぬ訳じゃねー…しっ。」 「でも…ッ!」 必死に対抗をしようとすると、声が詰まった。何しろ、松浦をこんな目に遭わせたのは自分なのだ。 そう考えるだけで、涙が出てきそうになった。 「だって、俺のせいで…俺の判断ミスでお前が…っ。」 もう限界だった。自分がだんだん情けなくなり、下を向いて泣き顔を隠した。止めようとしても涙は止まらず、次々と目からこぼれ落ちる。 すると、ふいに松浦に片腕で抱き寄せられた。その腕は怪我をしていて体力を失っているはずなのに、どこか力強かった。 かすれた声で松浦を呼ぶと、松浦は相田でも聞こえるように耳元で囁いた。 「あんたは…悪くない。俺が…好きにやっただけだ。」 相田は涙でぼやけた目で見ると、松浦は苦しむどころか笑っているようだった。 松浦は、相田を抱く腕にさらに力を込めた。 「あんたが…、相田か無事で…よかった。」 「ッ!!」 あまりの予想外な言葉に、相田は体中が熱くなるのを感じた。 その熱はさめず、どんどん体の先まで浸透していった。 もしかしたら、この熱が松浦にも伝わるんじゃないかと、相田の鼓動は速まるばかりだった。 近くでパトカーの音がする。 どうやら犯人はあれから抵抗することなく観念したらしい。 しかし、今の相田は犯人逮捕を喜ぶよりも、松浦の怪我と言葉に頭が混乱していた。 ほかの刑事が駆けつけるまで、相田は松浦の方から顔を上げることができなかった。image=409794092.jpg
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