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「……は?」
俺は幻聴かと疑った。いやむしろ幻聴であってくれ……!!
「だからね。珠生(タマキ)ちゃんには秋悠館(シュウユウカン)に行ってもらいたいの」
思わず聞き返した俺の努力も虚しく、繰り返す母の声は先程の言葉が幻聴ではないことを証明した。
「な、なんでまた……よりによって秋悠館……」
俺の戸惑った声に、日本人形を実物大にしたような母は答える。
「だって隣の楓ちゃんが一人じゃ寂しいって言うんだもの」
どう見ても三十路を越えているように見えない母は、コテンと首を傾けて言った。
「珠生ちゃん、嫌?」
「そうは言ってないけど……」
「じゃ、いいのね?」
俺が返事に困っている間に、母は自己完結してしまった。そしてニコニコしながら俺に言う。
「良かったぁ~。楓ちゃんから珠生ちゃんの説得を頼まれてたの」
俺が母の頼みをほとんど断れないのを知っている幼なじみのほくそ笑んだ顔を思い浮かべ、俺はただため息を吐くしか打つ手がなかった。
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