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『素因』

　最近一人暮らしを始めた俺は、毎晩隣の部屋から聞こえてくる、ドンドンと壁を叩く様な音に悩まされていた。

　ところが、鼻息荒く苦情を言いに行くと、

「は？　そんな音出してませんけど」

と、隣人の女は怪訝な表情を浮かべた。

「寧ろ、うるさいのはそっちでしょ！　何だか壁を引っ掻いてるみたいですけど、ペットでも飼ってるんですか!?」

「はぁ?!　飼ってませんよ！」

「じゃあ、あの音は何なんです?!　聞いてみて下さい！」

　彼女に言われるがまま部屋に上がり、案内された壁の前に立ってみると、確かに隣から“ガリガリ、ガリガリ”と壁を引っ掻く様な音が聞こえる。だが、ちょっと待て……。

「いま、俺の部屋には誰も居ない筈……」

　ならば、音は一体どこから聞こえている？

　俺と彼女はハッとして、顔を見合わせた。

　隣ではない。この音は……。