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『おかえり』
「ただいまー」
一人暮らしのこの部屋に、ついそう言いながら帰ってきてしまうのは、大家族の中で育った習慣と寂しさからだ。
田舎に居た頃は、私が帰宅すると必ず誰かが返事をしてくれた。
おじいちゃんは新聞を読みながら、おばあちゃんは優しく微笑んで、お母さんだったら「お帰り」の後に、小言が二、三……。
思春期真っ盛りの中学生だった弟は、私を異性と意識してなのか「おう」と素っ気無い態度を取り、小学校低学年だった妹は「お姉ちゃん、お帰りー」と、私の膝に抱き着いてきた。
そんな日常を煩(ワズラ)わしいと思った時期もあったけど、こうして独りで生活してみると、家族の有難みが凄く身に沁(シ)みる。
でも、この一人暮らしとも、もう直ぐお別れだ。
来月、私には新しい家族が出来る。
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