『鏡花水月』

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『鏡花水月』

「愛してるよ」  彼女は何も応えず、瞳を閉じたまま薄っすらと笑みを浮かべる。  壊してしまわない様にそっと手を伸ばしてみても、この指先が彼女の肌に触れる事は無い。  逆に、彼女の白く長い指が僕の髪を撫でる事も、その薔薇のような紅い唇が愛の言葉を紡ぐ事も無い。  それでもいい。僕は幸せだ。 「あぁ……君はどうだい?」  彼女はやはり何も答えない。だが、少なくとも僕の心は、こうして君の前に立つだけで、充分に満たされていく。  ──至福の時……。  そして、ひんやりと冷たいガラス窓にピッタリと頬を当てると、この瞬間を逃さない様に彼女を真似て目を閉じた。  ベッドで寝息を立てる彼女に、この温もりが僅かでも伝わりますように……。  
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