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『接吻(クチヅケ)』
「ねぇ……私の事、好き?」
「どうしたの、急に?」
彼は困った様に眉を八の字に歪めると、ベッドから起き上がり、煙草に火を点けた。
紫煙をゆるりと燻らせると、私の部屋が香ばしく、苦い薫りで満たされていく。憎らしい程に愛しい、あなたの匂い……。
「好きに……決まってるだろ」
彼は煙を吐き、背を向けたまま答えた。
「……そう」
私は小さく呟く。
好き……でも愛してはいない。彼の背中は、言葉よりもずっと正直だった。
「ねぇ、キスして……」
着替えを終え、部屋を出ていこうとする彼に向かって、私はそう強請(ネダ)る。それに応え、彼の唇が私の吐息を包み込み、長いようで短い、濃厚で淫靡な接吻を交わした。
やがて彼はもがき苦しみ出す。
程無く、私も……。
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