『携帯電話』

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『携帯電話』

 会社からの帰り道。留守録に残されていた伝言を聞きながら、私は首を傾げた。 『もしもし、裕美? 俺だけど、今からそっち行くから。じゃあ』 「……裕美?」  どうやら間違い電話のようだ。  それにしても随分と横柄な男ね。しかも間違いだと気付いていないのか、何件も電話を掛けてきていた。 『裕美! 着いたけど居ねぇのかよ!? クソが連絡くらいよこせ、コラ!!』  粗暴な奴……。しかし、こうなってくると、裕美さんという人に悪い気がしてくる。  一応全ての留守録を聞いてから、この男に折り返し電話を掛けてやろうと、私は携帯電話を操作して最後の伝言を再生させた。 『さっきはごめん。合鍵作ったの忘れてた。先に部屋に上がって待ってるよ、“洋子”』 「……え?」  洋子──それは私の名前だった……。  
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