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「こんなところかな?」
「……」
少女には何も言えない。言えるわけがない。この状況が非現実的であることくらい、記憶を無くした人間でもわかる。
「……? わからないとこあった?」
「う、ううん。頭では分かったけど、気持ちがね……」
「そうだね。無理もないよ。僕には君の気持ちが分かる」
少女は目で疑問を投げかける。
その表情はずるいだろ、と心の中でつぶやくリュウ。
この瞬間、リュウは別の意味で守るのは大変だと悟った。
トレゾールを狙われるのではなく、少女自身が狙われることも覚悟しなければならないと。
「僕も君と同じ、記憶を無くした人間なんだ。ここに来たのは5才の時。僕は君のように旅人としてここに来たわけではないけどね」
「じゃあ、なんのために……」
リュウの顔が一瞬悲しげに見えた。
少女は何かいけないこと聞いてしまった気がしたのだが、
その通り。
「僕は現に捨てられた人間。自ら来たわけではないんだ。何故捨てられたのかは分からないけどね」
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