641人が本棚に入れています
本棚に追加
「……わからない」
「記憶……無いのでしょ?」
「!?」
少女は恐怖でひきつった表情をブンタへ向ける。言い当てられた驚きと、記憶が無いという状況。
少女はどうすればいいのか分からなくなった。
「ねぇ、私は誰? どこにいたの?どうしてここにいるの? 教えて。ねぇ、……」
ブンタはゆっくりと少女の顔の高さまでしゃがみ、説明し始めた。
「貴女が誰なのかは存じません。それをこれから探すのですから」
さがす……。……“自分探し”
そういうことね。
元々優秀だった少女が、自分の置かれた状況を理解するのに、長い時間は不要であった。
「つまり、私はなくした記憶をこれから探さなければならない。そしてあなた達が私を手伝う、ってとこかしら?」
強気で話すが声のふるえは隠せない。
そもそも、こんな状況を理解は出来ても、認めることなど出来なかった。
それでもブンタは驚きを隠さなかった。
「ほう。この状況で大したお嬢さんだ。半分は理解できましたね」
「まだ半分?」
「ええ。この旅の真の目的は新しい自分を探すことなのです。貴女が拒否していた現(うつつ)の世界。そこをいったん離れて、0から自分を探すというわけです」
「私が現を拒否していた? じゃあ、私がここにいるのは自分の意志でもあるというの?」
「少なからずそうなりますね」
少女はやっと自分の置かれた状況を理解した。
旅をしなければ帰れないということを。
帰る場所すら覚えていない少女にとってこの思考は結局意味のあるものとは思えなかったが。
最初のコメントを投稿しよう!