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堕胎医者らしい男は呟くと、死体を抱え上げる。
「しょうが無えな……!? また、棄ててくるか……」
荷車へ死体を載せ、筵を掛けて医者自身が荷車を引く様だ。
「重いなあ……!?」
幾ら死体とは云え、仮にも先刻までは生きていた者の筈。
余りにも非道な言葉を残し、医者坊主は闇の向こうへ消えていった。
二
「大変で御座います!! 大変で御座います!!」
朝靄に煙る八丁堀同心組屋敷に、まだ幼い少年らしい叫びが響き渡る。
「何用で御座いますか……?」
まだ明け六ツの鐘が鳴らぬのに、叩き起こされて寝ぼけ眼の雪枝が応対に出た。
「お寺の門前に、仏様が!?」
仏様と聞いて、雪枝の眠気は吹き飛んだらしい。
すわ一大事と、長男の惟千代に添い寝している田嶋を起こしに掛かった。
「旦那様!? お役目ですよ!?」
揺すぶろうと叩こうと一向に起きる気配のしない田嶋へ、雪枝は実力行使。
敷き布団を掴んで、一気に持ち上げる。
枕に鼻を殴打した田嶋は、その痛みで目を醒ました。
「何でェ、雪枝……!? 今日は、オイラぁ非番だぜ……!?」
そうは言うが、一朝事有らば駆け付けるのが廻り方の仕事。
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