~第一話~ 一度とて、泣かぬ姑獲鳥(うぶめ)の涙雨

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 堕胎医者らしい男は呟くと、死体を抱え上げる。 「しょうが無えな……!? また、棄ててくるか……」  荷車へ死体を載せ、筵を掛けて医者自身が荷車を引く様だ。  「重いなあ……!?」  幾ら死体とは云え、仮にも先刻までは生きていた者の筈。  余りにも非道な言葉を残し、医者坊主は闇の向こうへ消えていった。       二 「大変で御座います!! 大変で御座います!!」  朝靄に煙る八丁堀同心組屋敷に、まだ幼い少年らしい叫びが響き渡る。 「何用で御座いますか……?」  まだ明け六ツの鐘が鳴らぬのに、叩き起こされて寝ぼけ眼の雪枝が応対に出た。 「お寺の門前に、仏様が!?」  仏様と聞いて、雪枝の眠気は吹き飛んだらしい。  すわ一大事と、長男の惟千代に添い寝している田嶋を起こしに掛かった。 「旦那様!? お役目ですよ!?」  揺すぶろうと叩こうと一向に起きる気配のしない田嶋へ、雪枝は実力行使。  敷き布団を掴んで、一気に持ち上げる。  枕に鼻を殴打した田嶋は、その痛みで目を醒ました。 「何でェ、雪枝……!? 今日は、オイラぁ非番だぜ……!?」  そうは言うが、一朝事有らば駆け付けるのが廻り方の仕事。
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