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「田嶋さん、お待たせしました。住職の鶴惠様を連れて参りました」
ぱっと見、五十絡みの住職だが穏やかそうな物腰とは裏腹に眼光は妙に鋭い。
だが糸の様に細い瞼に阻まれ、田嶋を除いては誰一人気付く者は居なかった。
「ちょいと、庫裏を借りれねェかい? 仏の検分をしねェとならねェンでな」
幾ら明け六ツ前とは云え、そろそろ河岸や棒手振り行商人が動き出す時刻。
「良う御座いますとも。どうぞ、ご存分にお使いください」
鶴惠の許しが出た為、田嶋達は近くの店から戸板を借りる。
無用な傷を付けない様、慎重に扱っていると偶々棒手振りの行商人である継次が通り掛かった。
「あれ? 八丁堀?」
こんなに朝早くから何してるのかと、野次馬根性丸出しで近寄る。
血の気の失せた死体と目が合い、剣呑剣呑と継次は坂の下から逃げていった。
三
粋で鯔背な魚売りらしい継次の声が、日本橋と京橋の一角に響き渡る。
どうやら初鰹らしく、いつもの継次よりは張り切っていた。
江戸っ子の間では、一尾で三両は下らない初鰹。
鰹本来の旬は秋だが、江戸っ子は五月頃に食べるのを初物と言って先を争う様に求める。
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