彼はいかにして彼を訪ねなくてはならなくなったのか

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それから数ヵ月が経ち、大男の元へ届けられたのは、初老の男が遠い街の病院に担ぎ込まれたという知らせだった。 共に旅をしていた芸人たちには何とか理由を繕い、急いで駆けつけた。 「──やあ」 旅立つ前よりもずっと痩せた初老の男が、病院のベッドに横たわり、弱々しく笑っている。 何を話したか覚えてはいない。 ただ、初老の男が独りで旅立った事や、無理を押して旅を続けて倒れたことを責めたような気はする。 「馬鹿」と「死ぬな」は、それぞれ100編くらいは言ったと思う。 初老の男は、叱られても拗ねられても、ただ微笑んで聞いていた。 「俺はそう簡単に死なないさ。医者の先生もそう言ってる。それより──」 初老の男は痩せて枯れ枝のようになった腕を伸ばし、私物の入った引き出しをゆっくりした動作で開けた。 「約束だ。俺の代わりに娘を探してくれ」 少し震える手で取り出されたそれは、きっと今ほど身体が弱るより前に用意していたものなのだろう。 渡された封筒に綴られている文字は、宛先も自身の署名もしっかりとしたものだった。 .
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