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そうして託された手紙を持って、大男は頼まれた通りにある人物を訪ねる。
その人物が住むという郊外にあるその屋敷は、森の中に隠れるように建っていた。
ここを訪れるのは久しぶりだ。
広範囲に渡っていくつもの邸宅を所持しているため、ここも気が向いた時にしか使用していないのだそうだ。
たまたまここにいる事を掴めたのはラッキーだ。
広いエントランス。そこを抜けて、絵画がたくさん飾られている長い廊下を歩く。敷かれている絨毯はふかふかだ。その先にある白い大きなドアを開く。
そうしてやっと、屋敷に足を踏み入れて最初の人間に出会えた。
いわゆる、豪邸だ。
何種類もの書類とにらめっこしていた女性が気配に顔を上げ、大男を確認してため息をつく。知的な美女である。
「お久しぶりでございます」
黒い髪をきっちり後頭部で束ねた女性は、言葉だけは丁寧に彼を迎えてくれた。
「久しぶり。カスミは相変わらず忙しそうだな」
「ご主人様には及びません。あの方はいつも飛び回っていらっしゃいます」
カスミという女性はほんの少し首をかしげて、黒い瞳を隣の部屋へ動かした。
「いるんだろ? あいつ」
『あいつ』という言葉に少し眉を寄せられ、大男は慌てて誤魔化すように笑った。
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