彼はいかにして彼を訪ねなくてはならなくなったのか

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「本日はお出かけの予定はありませんが……あなたにはお会いにならないと思います」 大男は話している途中のカスミの横をすり抜けて、隣へ続くドアの前に立つ。 岩のような拳がごつごつと乱暴にノックすると、やや間があって、 「何?」 不機嫌そうな声だ。 「………お休みのところ失礼いたします。ダージリン様がお見えです」 大男が黙っているので、仕方なくカスミが答えると、ドアの向こうの声はますます不機嫌そうになり 「いないって言って」 「てめぇ、聞こえたぞ!」 ドアを隔てて威嚇してみたが、向こう側からの反応はない。おそらく無視されているのであろう。 大男がその人物を敬遠しているように、相手も彼を疎ましく思っている。それを承知でやって来たのだ。 汚れ、裾がほつれ、くたびれたコートのポケットから、初老の男に託された手紙を取り出す。 くしゃくしゃになったそれを少し皺を伸ばしてからカスミに渡すと、彼女は驚いたように目を見開いた。 「リー様からのお手紙をお持ちです」 間。沈黙。無反応。 しばらくして、ドアの向こうから大げさに息をつくのが聞こえた。 だから、聞こえてるっつうの。大男がぼそっと呟く。 「……通して」 隣室へのドアが内側から開いた。カスミから手紙を返してもらい、中へ入る。 部屋の主は、窓辺にある質のよさそうなデスクで本を読んでいた。 .
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