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「──で、何の用?」
素っ気なく相手は言った。
広く、使い勝手の良さそうなデスク。そこに座り、読んでいる本に視線を落としたまま。
彫刻のように整った顔立ち。仕草から表情ひとつまで、優雅だがどこか作り物めいている。本を読む動作さえも。
ただ、その声だけは、遠い昔から聞いていたような──懐かしささえ感じる。
ここ一、二年ほど顔を合わせてはいなかったが、それは半ばわざとそうしての事だ。
懐かしいと感じるのは、ただ相手の声が──誰かに似ているからだろう。
「……預かってるんでしょう、手紙」
ぱらり。細く長い指がページを捲る。
「お前ってさぁ……」
かなり色褪せ、くたびれたコートを着た大男は、息を吐きながらボサボサの頭をがりがりと掻いた。
「まず、久しぶりとか、元気かとか言えないのかよ」
「……ヒサシブリゲンキカ」
棒読みで口に出すと、秀麗な顔立ちを少しだけしかめて、再びぱらりとページを捲る。
「あまり外でこういう会話をしたくないな。君と知り合いだと思われたら恥ずかしいでしょう」
それから相手はふうっと視線を上げ、薄汚れた大男を見上げると
「手紙」
形の良い唇から抑揚のない声が零れた。
「預かっているんでしょう? 出して」
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