彼はいかにして彼を訪ねなくてはならなくなったのか

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大男は腕を組み、初老の男は人形を構いながら、お互い黙り込んで通りを眺めた。 時おり子供たちがかん高い笑い声とともに走り過ぎ、呼び込みが通行人に熱心に宣伝しているのが見える。 「──なあ、ダージリン」 初老の男が口を開いた。大男は顔だけをそちらに向ける。 「頼みがある」 「なんだよ。改まって」 大男がにいっと笑う。人懐こそうな、愛嬌のある表情だ。 「水くさいぜ。俺はあんたのことを家族同然に思ってるんだ。……俺にできる事なら何でもする。言ってくれよ。金はないけどな!」 そうか、と初老の男は微笑み、少しだけうつむいた。 「じゃあ聞いてくれ、ダージリン。俺は……この興行が終わったら、しばらくこの一座を離れるよ」 「しばらくって事は、また戻ってくるんだよな?」 それには答えず、初老の男は路地に積み上げられている木箱のひとつに腰を降ろした。 「……リー?」 「これから言う事は、誰にも言わないでくれるか? 仲間にも、団長にも」 大男は怪訝な顔つきで、初老の男の横、地面に直接どかりと腰を落とした。 .
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