一章:記憶を失った英雄

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   私とアルネがそんな調子でふざけていると、再び歓声が耳に入ってきた。   「終わったようですね。 さ、姫様。次は姫様の出番ですよ」    ついにか。 アルネのはしゃいだ調子の声を聞きながら、覚悟を決める。    深呼吸。久しぶりの外の空気は、とても重く感じられた。これから私は温室暮らしの姫から、国民の期待を背負う英雄となる。    その事実が、何よりも私の気を引き締める。人々の英雄は、その気持ちに応える人物でなくてはならない。   「よしっ」    大丈夫だと自分に言い聞かせ、力強く頷く。気持ちに揺らぎはない。私はどうやら緊張に強いらしい。   「大丈夫なようですね、姫様。それでこそ英雄です」   「演説台に立ったらどうなるか分からないけどね。とりあえず頑張るわよ」    まるで最終決戦に挑む前の会話だ。おかしくなって私が笑うと、アルネが突然頭を下げた。    
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