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「いえ、できません。
これは国王様からのご命令で――」
やっぱりだ。
真面目な騎士さんだこと。私はため息を吐き、アルネを指差す。
「あのメイドがいる限り、私は大人しいわよ、ずっと。逃げられるわけがないじゃない」
「しかしこれは命令で……」
「うっさいわね。今ここでセクハラだと叫んでいいのよ?」
と言うと、あっさり解放された。真面目な騎士さんも、こんな子供にセクハラしたと言われるのは困るようだ。
規則正しく頭を下げた騎士は顔を上げる。鎧が音を立てた。
「すみませんでした。
逃げたいと思っているオーラを感じまして、つい姫様を止めなくてはと思い……」
意外とこの騎士は勘が鋭いかもしれない。
「――ったく。
まあいいわ。ごめん、父さんの命令に付き合わせて」
「は、はあ……」
そんなことないです。普通はそう言うべきであろうこの場面で、騎士は意外そうに口を開いただけ。
私が謝るのが意外だとか思っているのだろう。
「どしたの?
ほら、早く持ち場にでも戻りなさい。私が何をするべきかはアルネに聞くから」
「――あ、はい。
すみませんでした。では、持ち場に戻ります」
「……?」
何か様子がおかしい気がする。目に生気が感じられ――等と考える間もなく、騎士は走り去ってしまった。
「姫様? どうかしましたか?」
「いや、なんでもないわ」
なんでも……ないわよね。何か嫌な予感がするけど、気のせいよね。
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