一章:記憶を失った英雄

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  「いえ、できません。 これは国王様からのご命令で――」    やっぱりだ。 真面目な騎士さんだこと。私はため息を吐き、アルネを指差す。   「あのメイドがいる限り、私は大人しいわよ、ずっと。逃げられるわけがないじゃない」   「しかしこれは命令で……」   「うっさいわね。今ここでセクハラだと叫んでいいのよ?」    と言うと、あっさり解放された。真面目な騎士さんも、こんな子供にセクハラしたと言われるのは困るようだ。    規則正しく頭を下げた騎士は顔を上げる。鎧が音を立てた。   「すみませんでした。 逃げたいと思っているオーラを感じまして、つい姫様を止めなくてはと思い……」    意外とこの騎士は勘が鋭いかもしれない。   「――ったく。 まあいいわ。ごめん、父さんの命令に付き合わせて」   「は、はあ……」    そんなことないです。普通はそう言うべきであろうこの場面で、騎士は意外そうに口を開いただけ。    私が謝るのが意外だとか思っているのだろう。   「どしたの? ほら、早く持ち場にでも戻りなさい。私が何をするべきかはアルネに聞くから」   「――あ、はい。 すみませんでした。では、持ち場に戻ります」   「……?」    何か様子がおかしい気がする。目に生気が感じられ――等と考える間もなく、騎士は走り去ってしまった。   「姫様? どうかしましたか?」   「いや、なんでもないわ」    なんでも……ないわよね。何か嫌な予感がするけど、気のせいよね。    
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