一章:記憶を失った英雄

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   さて。で、私は演説台の裏。客がいる側から見えない場所にいて、ちらちらと顔を出しながら客の様子を窺っている。    ……ふむ。父さん、あんなに人気あったかしら。魔法教がいる理由は身に覚えがあるのだけど。ふうむ。   「姫様。そんなに頻繁に見ていたらバレてしまいます」    隣にいるアルネが、私の肩を軽く叩く。バレることの何が悪いとも思ったが……仕方なく観察を中断した。    王様の話しているステージの影から、姫がちょこちょこ顔を出していたらシュールすぎる。それをたった今理解した。   「姫様。もっと落ち着いて下さい。見物人が気になるのも理解できますが」   「……」    これでも落ち着いているんだけどね。見ていたのは暇なだけで、あれは完全に落ち着いた上での行動である。    しかしそれでちょこちょこ顔を出すことになったのだから、落ち着けと言われても仕方ない。    私は適当に相づちを打ちながら、アルネに視線をやる。    外出中ということもあり、アルネの背中には身長ほどの長さの大剣がある。そんなものを背負っているにも関わらず、アルネの表情は涼しげだ。    信じられないかもしれないけど、アルネは凄まじい馬鹿力の持ち主なのだ。身長くらいの長さの大剣なら、楽々振り回せる。    そんなアルネと私は幼馴染みらしいけど、子供の頃喧嘩で振り回された話を、母さんから聞いた。    勿論子供の頃に剣など持っている筈はなく、振り回されたのは……私だ。    そのエピソードを聞いてから私は、あまりアルネを怒らせないようにしている。  
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