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さて。で、私は演説台の裏。客がいる側から見えない場所にいて、ちらちらと顔を出しながら客の様子を窺っている。
……ふむ。父さん、あんなに人気あったかしら。魔法教がいる理由は身に覚えがあるのだけど。ふうむ。
「姫様。そんなに頻繁に見ていたらバレてしまいます」
隣にいるアルネが、私の肩を軽く叩く。バレることの何が悪いとも思ったが……仕方なく観察を中断した。
王様の話しているステージの影から、姫がちょこちょこ顔を出していたらシュールすぎる。それをたった今理解した。
「姫様。もっと落ち着いて下さい。見物人が気になるのも理解できますが」
「……」
これでも落ち着いているんだけどね。見ていたのは暇なだけで、あれは完全に落ち着いた上での行動である。
しかしそれでちょこちょこ顔を出すことになったのだから、落ち着けと言われても仕方ない。
私は適当に相づちを打ちながら、アルネに視線をやる。
外出中ということもあり、アルネの背中には身長ほどの長さの大剣がある。そんなものを背負っているにも関わらず、アルネの表情は涼しげだ。
信じられないかもしれないけど、アルネは凄まじい馬鹿力の持ち主なのだ。身長くらいの長さの大剣なら、楽々振り回せる。
そんなアルネと私は幼馴染みらしいけど、子供の頃喧嘩で振り回された話を、母さんから聞いた。
勿論子供の頃に剣など持っている筈はなく、振り回されたのは……私だ。
そのエピソードを聞いてから私は、あまりアルネを怒らせないようにしている。
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