195人が本棚に入れています
本棚に追加
「……閑話休題」
このままアルネに構っていても、話が進まないと感じ、私は軌道修正を入れる。
「やっと会えたとか言ってたけど、あなたは私に何か用が?」
「あ、そうそう忘れてた。
僕はこういう者でして……」
突然顔を凛とさせ、背筋を伸ばすと少女は長方形の小さな紙を丁寧に両手で持ち、こちらに差し出した。
何だろう? 少し警戒しながら、紙に書かれていることを読み上げる。
「『掲示板管理者
コンリ・コンラクン』。
……何これ?」
書かれている意味は何となく分かるけど、これがどうしたと言うのだろうか。
「所謂、名刺というやつだけど……初めて見た?」
「ええ。名前も初めて聞いたわ」
名刺、という物らしい。ふと一度、灯りに翳すようにして見てみる。
私はマテリアルが使えるからか、『物に込められた想いが見える』という特殊な力がある。
それなりに大事にしている物なら、何かしらの色が見えるのだが。
「……?」
名刺は売られている普通の紙に、ペンで文字を書いただけの品のようだ。
想いが宿る時間もなく、簡単に作れる品物だろう。
だが、名刺には想いが込もっていた。見えるのは仄かに暖かい、ピンク色。
「あんた……」
私は呆れた表情で少女を見る。
文字を書くだけで、目に見えるほどの想いを込めるなんて。
相当なお人好しか、仕事熱心な人間なのね。
最初のコメントを投稿しよう!