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「……知らないわ」
しばらく考えて、一言。国の名前、王族の名前、とかなら知っていると答えられるけど、導きの神なんてものは知らない。
「そう、なるほどね」
メモにはペンを走らせず、どこかほっとしたようにコンリは言う。
書かないあたり、大切な質問ではないらしい。
もしくは、忘れない、記憶できるくらい印象が強い質問なのだろう。私にはさっぱりだけど。
「ありがとう。これでいい記事が書けるよ」
「そう。これくらいなら何時でも協力するから。疲れてるとき以外は」
「はは……。ごめんね、どうしても当日に聞きたくて」
感謝と謝罪、一回ずつコンリが軽く頭を下げる。
「あ、そうだ」
そしてすぐ何かに気づき、ポーチを漁り始める。
忙しない子だ。微笑ましくそれを見守っていると、コンリはポーチから小さな箱を出した。
「はい、コレ。
取材のお礼と、一周年記念のお祝い」
「……? 何?」
「ケーキ。偶然にもショートケーキですぜ、姫様」
冗談っぽい口調でコンリは言う。ケーキ……。
ふと、頭に疑問が浮かぶ。
「アルネ。ケーキって二段だったり、丸いでかい形してるわよね? こんなに小さいの?」
城で見るのはもっと大きいサイズなのに、箱は手のひらに乗る程度。こんな大きさはあり得ない……。
まさか罠では?
「姫様、すっかりブルジョワな発言が板につきましたね」
ため息をつくアルネが私に近づき、箱を開ける。
コンリが言った通り、中にショートケーキが二つ入っていた。いつも見る物より小さいけど、一人で食べるならちょうどいいかしら。
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