一章:記憶を失った英雄

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   少しして、大きな歓声が聞こえてきた。演説台の影にいる私からは、広場の様子が分からない……が、父さんが演説を始めたようだ。    歓声が止み、父さんの声が辺りに響く。内容は至って普通に聞こえる。   「あれで人が集まるんだから、父さんの人望はすごいわよね」   「……あら? 姫様、ご存知ないのですか?」    私の呟きに、アルネは首を傾げた。未だに私の髪の手入れをしている。   「皆さん、ここには姫様を一目見に来たのですよ」   「は、はあ!?」    思わず声が出る。私を見に? なんで?    今日は誕生日でもない筈……。ええと、記憶がなくなって一周年記念? ――いや、それは流石にないわよね。そんなことをしたら、ただの苛めだ。   「あらら、本当にご存知ないようですね。王様は内緒にしていたのでしょうか……」    私は知らないのだが、アルネは知っているらしい。手入れを止め、私の前に回り込む。    
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