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県道までの細い抜け道を朝の空気に触れながら進む。すぐ脇には水路が延々と続き、流れるせせらぎの音が辺りを満たす。
空は薄青と橙の混じったような色合いで、未だ日の昇らない明け方の淡く仄かな時間を包み込んでいた。
肌に纏わり付く湿気と少しだけ冷たい風、本格的な夏が訪れる前の梅雨独特の空気感、明けを待つだけの間、気持ちがくすむのもまた一つの季節の証明。
数分の歩みの先に見えたのは短い階段、錆び付いた手摺りには触れずに軽く跳ぶように上がっていく。
まだ待ち合わせの時間までは余裕がある、けれど今日に限っては早く着く事に意味がある気がした。
県道に出ると山並みから朝日が覗く、眩しさについ瞼を閉じてまたゆっくりと開くと、鮮烈な朱が浮かび上がる。
緑の艶めきにもましてその輝きが視界一杯に映り込み、鳥のさえずりと共に一日の始まりを告げ、移り変わる時は夜の終わりを表す。
時計の短針が一回りする間だけそれを見つめると、街には背を向けて道沿いに足を進めた。
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