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とある日の午後のこと。
ネフティス夜皇国の首都はヴェリタス、フェーレンヴェルク宮殿の一角に彼はいた。
歳は人間の目で見れば、三十に届いたか届かないかくらいだろうか。波打つ赤い長髪を、青地に白の模様が染め抜かれたバンダナで無造作にかきあげている。
黒ずみ、奇妙なヒレのような形をしている耳先は、彼がヒトではなく竜族であることを示していた。
男の名は、ヴァプラ・シェーシャ・マートナ。ネフティス夜皇国軍の少将であり、戦場では「赤雷」の異名をとる猛将その人だ。
「何をやっている、シェリィ?」
「んあ」
切れ長のつり上がった目から注がれる眼差しは、この狭苦しい物置部屋のがらくたの山に向けられていた。だが声をかけられ、後ろを振り向く。
「よう、ナフ。なんだ、お前も探しもんか?」
振り向いた先にいたのは、ヴァプラと共に「ネフティスの双璧」と恐れられる将軍……「黒砂」ナフード・バラム・ダクティルだった。浅黒い肌に癖のある黒髪は、ヴァプラとはまた違った精悍さを醸し出す。
ナフードの階級はヴァプラより上の中将だったが、長年共に勤めているし、そんな細かいことを気にするような仲でもなかった。
「いや。俺はただ休憩しに来ただけだ。ここは居心地がいいからな」
「居心地って、お前。こんな埃臭いトコが?」
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