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「平九郎殿、お待たせ致した。」
平九郎が獅噛に付着した返り血を払い、身なりを整えて半刻ほどした後、小太郎は茂みより謝罪の言葉の共に姿を現した。
平九郎は苦笑しながら
「なに、この程度待った内に入りませぬよ。」
と応じた。
そして平九郎は笑顔から一転して真顔になり…
「して、後方は如何でござった?」
「ムグッ!?」
平九郎の言葉に小太郎は表情を強張らせた。
平九郎の言葉は表向きには『策』の手応えを聞いて居たが、その裏には賊徒の『討伐軍』が居るか偵察に行った小太郎の独断の行動の結果を訊ねる物であった。
(読まれて居る…やはり唯の鬼武者に非ず、じゃ…)
小太郎は平九郎の全てを見通した戦略眼に冷や汗を禁じ得なかった。
「小太郎殿?」
平九郎が首を傾げながら再び小太郎の名を呼んだ。
「ッ!?申し訳ない!!
この場より20里程後方より軍らしき集団を発見致した。」
小太郎は戦慄から立ち直り、謝罪をした後に、偵察の結果を報告した。
「ふむ…軍か…」
平九郎は顎に手を当て、少し考える素振りをした後、
「旗印は?」
と短く訪ねた。
小太郎は少々困惑した様子で、歯切れを悪くしながら…
「それが…軍旗に家紋が無く、軍旗にはただ『馬』と描かれて居るのみにござる。」
「『馬』?…知らぬ家紋じゃ…訳が分からぬ…」
平九郎は額を抑えながらしばらく考えた後…
「分からぬ物を考えても致し方あるまい…儂がその軍の将に使者として面会を願い出よう。
小太郎殿は投降した賊徒等の見張りをお頼み申す。」
「承知致した。御武運を。」
小太郎は一瞬驚きの表情を見せたが、納得し、ニヤリと笑みを浮かべた。
「なれど平九郎殿。」
だが、ここで小太郎が1つ忠告をした。
平九郎にイタズラっ子の様な笑みを浮かべながら…
「その言葉使いは止めなされ。
今の貴殿の姿は、13,4の童にござるぞ?」
「ぬ…」
平九郎は忘れていたのか、グッと押し黙った後…
「承知…いや、分かった…」
苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、渋々と言葉を直した。
そして大きな溜息を吐き…
「では、行って来る。」
そう言い残し、軍が居る方向へ足を向けて歩き出した…
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