鬼九郎の最後

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「半兵衛…刑部殿…儂は満足じゃった…」 今、1人の武人が最期を迎えようとしていた。 名は『平塚為廣(ヒラツカタメヒロ)』、日本一の槍の名手と謳われ『千手槍の鬼九郎』と言われながら表舞台に現れずに、裏方に徹した男である。 彼の右手には太閤・豊臣秀吉から授けられた朱色の十字槍『獅噛(シガミ)』が返り血で更に紅く輝いていた。 しかし彼にはもう力が残っておらず、所々にある傷から流れて行く血も平九郎の体力を奪って行くのであった。 「友に恵まれ、まことに幸せな…生涯であった… なれど…」 口惜しくもあった… 平九郎の心にたった1つだけ、心残りがあった… それは平九郎自身、武人として生きた証…つまり、『大きな武勲』が無いのだ。 常に裏方であった平九郎は参謀の役割を担って居たが、前線で武器を振るった戦はたった二回しか無く、武人らしい武勲を挙げた事が無かったのだ。 死に際にふとそんな考えが浮かんだ時に、獅噛から目映い程の光が放たれた しかし平九郎は血を流し過ぎたか意識が朦朧として、その事態に何も考えられなかった。 しかし、たった1つだけはっきりと思った事があった 「友が…呼んでおる…」 そして、平九郎のもう1つの物語が始まる。
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