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「それがし、今しばらく見聞を深めとうございますが…お恥ずかしながら、手持ちがございませぬ」
「ふむ…それで?」
「誠に申し上げ難き事なれど、我等をしばし雇っていただけませぬか…この通りにございまする」
渋い表情で肚の内を吐露すると、浮かせていた右膝を衝いて今度は平九郎が深々と頭を下げる
涼州、そして馬騰…平九郎は内心確信していた
ここは己の知っている日の本ではない、自分では理解も追い付かない荒唐無稽な事態が起こって異界へと首を突っ込んでいるのだと
「…………それは貴殿等を食客として迎えてくれ、という事かね?」
「虫の良い話だという事はそれがしも重々承知しておりまする
故に断っていただいてもお怨み申しませぬ」
「う…………む……」
長く美しい銀の髪と同じ色の髭を蓄えた顎を撫でながら馬騰は思案に耽る
(ぬぅ……叶わぬか……)
沈黙の中、平九郎は頭を深々と下げたまま諦念にも似た心地のまま両目を閉じる
自分が馬騰の立場であるならばにべもなく断っているだろう、亡き右府様…織田信長ならば膾に斬り叩いていたかもしれない
「不躾な問いかも知れぬが…平塚殿、そして風魔殿と申されたか」
『はっ』
「どうやら貴殿等は腕が立つご様子。
我が涼州は中小豪族の連合ゆえ、我が一存ではお答えしかねる」
「左様にございますか…では…」
「いや、それは裏を返せば貴殿等の実力を彼等に見せる事が出来れば…あるいは…」
「は…はぁ…」
「旋鹿党の件もあるゆえ、いささか申し訳ないが我が本拠武威の宮城へ同道願えぬか」
「は…?
いや、知らずとはいえ賊徒討伐を行った身、元よりご報告致しに伺うつもりにございましたが…」
予想外の切り返しに戸惑いを隠せずたじたじと答える平九郎に馬騰は思わず噴き出す
「くくっ…勘違いをなさりますな。
無下には扱いませぬ、貴殿等の知勇を涼州の諸君にご覧に入れて差し上げなされ」
優しい笑みを湛えた表情の馬騰に二人は悟る
自分達は首の皮1枚繋がったのだと
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