川中島の戦い

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「朔」 背後から不意に呼び掛けられ、ビクッと小さく肩を跳ねさせた。 振り向かずとも、その声音と気配で誰かは分かる。 「皆行っちゃったね」 あーあ、と言いながら私の隣に腰を下ろす蒼羽。 床に両手を付きながら足を組み、私と同様に空を見上げる。 穏やかな時間…。 久しぶりの静かな空間。 こうして話しもせずに、蒼羽と肩を並べるのはいつ振りだろうか。 「真田さ、朝早くから俺んとこ来て「行ってくるでござる!」って大声上げながら来たんだぜ?」 穏やかな空間の中、陽気に笑いながら話す。 (幸村大丈夫だったのかな…?) また前の様な惨劇にならなかったのかと、少し心配にもなった。 だけど蒼羽の笑い声を聞く限り、何もなかったのだと思わされる――…。 「…………」 笑いながらも横目で、隣に座る朔を視界に入れていた。 辛そうに見上げる朔の横顔を見る度、己が人であることに胸を抉(えぐ)られてしまう。 本当は幸村と共に行きたい――――。 だがそれは、自分が人であるが為に叶わぬこと。 (……くっ) 朔に自分以外を刀に持つなと言ってしまったから、彼女はそれを守って、他の刀を握ろうとしない……。 ぎりっ…と握られた拳は、小さく震えていた。 「……蒼羽」 「ん?」 「風が…、いつもと違う」 二人を撫でる暖かい風。 蒼羽には感じとれないが、朔にはそれが何故だか、心をざわつかせる。 胸の奥に沸き上がる様な感じ。 次第に速さを増す鼓動…。 ――――胸騒ぎ。 「朔、どうした?」 何かあったのかもしれない―…。 私はどうして戦えるのに、此処に座っているのか。 .
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