川中島の戦い

4/7
前へ
/28ページ
次へ
 ――貴女が、傷を負うのを見とうない―…。 ……幸村。 膝の上に置かれた拳が強く…強く握り締められる。 そして何か吹っ切れたかの様に、握られた拳は力無く解かれた。 「朔ー、どうし…」 「蒼羽っ!」 さっきから呼んでも返事の無い朔の顔を覗き込もうとした時、勢いよく顔を蒼羽の方へと向けた。 いきなり振り向いたせいで、驚愕な表情を見せる蒼羽。 「私、幸村達の所に行きたい!」 そして朔の言葉に目を見開く。 あまりにも驚いた表情のまま見ている蒼羽が、不思議に思い、首を傾げた。 「どうしたの?」 「えっ……や、俺…」 ――刀じゃないし。と言おうとした刹那、 床に両手付いていた手を朔が そっ…と触れた。 「…大丈夫だよ。私の刀は蒼羽以外に考えられない」 暖かいその言葉は、どんな人から言われるよりも、蒼羽の心に染み渡っていた――――。 「――朔」 「――蒼羽」 二人の視線が自然と交わる。 静かに目を閉じた朔は、すっ…と再び目を開けた。 「……?!」 金色の双眼に映るのは、二つの瞳の色が淡い紅色に染まった、朔の姿――。 その瞳を見た時、朔はもう自分が進むべき道を選んだと感じたのだ。 「私は"白き蝶"として行く。貴方はそれに着いて来れる…?」 両目が熱くなるのを感じた。 それと同時に、蒼羽の綺麗な瞳が微かに光っている。 目を見開いた蒼羽は、ふっと優しく微笑むと――… 「当たり前だよ」 ――ふわっ、と二人の周りだけ風が舞い上がる。 朔の栗色の長い髪が風に乗る様に、緩やかに揺れた。 「―――蒼羽」 .
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加