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――貴女が、傷を負うのを見とうない―…。
……幸村。
膝の上に置かれた拳が強く…強く握り締められる。
そして何か吹っ切れたかの様に、握られた拳は力無く解かれた。
「朔ー、どうし…」
「蒼羽っ!」
さっきから呼んでも返事の無い朔の顔を覗き込もうとした時、勢いよく顔を蒼羽の方へと向けた。
いきなり振り向いたせいで、驚愕な表情を見せる蒼羽。
「私、幸村達の所に行きたい!」
そして朔の言葉に目を見開く。
あまりにも驚いた表情のまま見ている蒼羽が、不思議に思い、首を傾げた。
「どうしたの?」
「えっ……や、俺…」
――刀じゃないし。と言おうとした刹那、 床に両手付いていた手を朔が そっ…と触れた。
「…大丈夫だよ。私の刀は蒼羽以外に考えられない」
暖かいその言葉は、どんな人から言われるよりも、蒼羽の心に染み渡っていた――――。
「――朔」
「――蒼羽」
二人の視線が自然と交わる。
静かに目を閉じた朔は、すっ…と再び目を開けた。
「……?!」
金色の双眼に映るのは、二つの瞳の色が淡い紅色に染まった、朔の姿――。
その瞳を見た時、朔はもう自分が進むべき道を選んだと感じたのだ。
「私は"白き蝶"として行く。貴方はそれに着いて来れる…?」
両目が熱くなるのを感じた。
それと同時に、蒼羽の綺麗な瞳が微かに光っている。
目を見開いた蒼羽は、ふっと優しく微笑むと――…
「当たり前だよ」
――ふわっ、と二人の周りだけ風が舞い上がる。
朔の栗色の長い髪が風に乗る様に、緩やかに揺れた。
「―――蒼羽」
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