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謙信の傍にいた慶次は、駆けて来る馬に乗る若者を見ると、楽しそうに笑う。
「おっ、赤いのが来たかぁー!」
馬に乗ったまま顔だけを謙信に向けた慶次は、「どうする、謙信?」と問い掛ける。
もちろん謙信から返ってくる言葉は予想済みだ。
「わたくしのあいては、かいのとらのみ」
すっ…と細められた双眼からは、済んだ空色の瞳が垣間見せる。
その瞳はただ一人の者しか捕らえていないだろう。
「謙信。ここは俺が、引き受けた!」
甲斐の虎のみ。と言う謙信の意思を尊重し、慶次はそう言い放つ。
その言葉に、謙信は小さく頷いた。
「上杉謙信!!覚悟っ!」
両手に十文字槍を握り締める幸村は、片手を引き出して、刃を振り翳そうとした。――――が。
――ガッ!
「…!!」
その刃は、大きく長い刀身によって妨げられてしまう。
「行け!!」
「何ッ…」
力の限り幸村の槍を受け止めた慶次は、背後にいる者に道を指し示す。
はっ!と幸村が上を見上げた時…。
―――ドッ。と馬が地を蹴り、宙を舞う。
二人の頭上を軽々と越える白い馬。
まるで神の化身の様な姿に、周りにいた兵士らも、ただ驚いた表情を晒しながら見ていた。
飛んだ馬は、幸村の背後に足を地につける。
「ありがたく」
ゆっくりと静かに慶次に礼を述べた謙信は、手綱を引くと、武田の本陣へと走り出した。
砂を蹴散らせながら走る謙信の後を追おうと、幸村も手綱を引き、向かおうとしたが――…。
「おっと、こっから先は通さねぇよ?」
片手で超刀を構える慶次は刃を、馬に乗る幸村へと向けた。
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