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刃を向けられた幸村は、その者の姿に目を大きく見開く。
これは上杉と武田の戦。
いくら伝えに来たのが慶次だとしても、何故この場所に居るのかが分からなかったのだ。
「何故、貴殿がかような場所に…」
「ん?んー…何て言うのかな……まっ、付き添い?」
付き添い、だと?
皆が命を懸けて戦場に立っているというのに、今幸村の目の前に居る慶次は、緊張感も見せない様子。
その態度が無性に幸村の魂を揺さ振った。
「付き添いならばッ…。これは武田と上杉の戦!!怪我をしたくなくば、今すぐ退かれよ!!」
眉間に皺を寄せながら言う幸村に対し、相変わらず飄々とした様子で慶次は馬に乗っている。
「言うねぇ。たしかにアンタ強そうだけど」
トンッ。と超刀を軽々と持ち、肩に乗せた慶次は苦笑を浮かべる。
そして ひょいっと馬から降りる慶次は、幸村の前へと静かに歩き近寄った。
「じゃあ怪我しない程度に遊んでくれよ。っていうか、俺に怪我させられるかな?」
幸村に対しての挑発的な言い方。
これには流石の幸村も、頭にきてしまう。
「なっ…!おのれ…愚弄するか!!」
――まるで俺には、傷を付けられないと言わんばかりの言い草。
余程、自分の腕に自信があるのか……。
「やっぱアンタ、おもしれぇなあ」
くくっ…と戦場に立っているのにもかかわらず、笑う慶次。
「楽しませてくれよ。真田幸村」
肩に担いでいた刀を、ブンッと振り、刀身を固い地面へと突き刺した。
その衝撃で一瞬だけ、地響きが辺りに響き渡る。
「前田慶次。まかり通る!」
霧が次第に薄まっていく中……。
こうして風来坊と、虎の子の戦いが始まったのだ――…。
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