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――ザザッ!
戦場とは打って変わり、静まり返る森の中では、二人の忍が向かい合っていた。
「こんな所で何やってるわけ?もしかして、お前の独断で戦が始まる前に、ウチの大将の首取ろうってハラだろ?」
「…………」
暗器を片手に立つ佐助の前には、胸元がざっくりと開いたセクシーな黒いタイツを纏う、くの一。
ぎっ!と鋭い眼光を見せるその者は、上杉の忍である――【かすが】。
「たくっ、戦忍としては三流以下の――…」
「うるさいッ…!!」
クナイを構えるかすがは目にも止まらない速さで、佐助との距離を縮める。
鬼の形相で近付くかすがに慌てる事なく、余裕そうな表情を浮かべている佐助。
避けようとしない佐助の首元に、かすがはクナイの先を突き付ける。
「私が此処にいるのは、貴様らの大将の首を取る為ではない」
周りに聞こえない様な声で言葉を紡ぐ。
「……は?」
驚いた様子を見せる佐助に、かすがは そっ…とクナイを下ろし、直ぐさま佐助との距離を取る。
軽く前髪を払うかの様に頭を振った、かすが。
前下がりの両サイドが腹部まである、彼女の長い金髪の髪が揺れる。
「……私が狙っているのは、お前達の大将じゃない」
離れとも尚、同じ事を言う彼女に対し、痺れを切らした佐助。
足を崩し楽な態勢を取る。
「だから誰?」
早く言えと目で訴える。
すると彼女は一度だけ目を伏せ、再び鋭い眼光を佐助に向けた。
「白き蝶だ」
謙信が最近やたらと言葉にする名。
そしてこの戦も、白き蝶をおびき出すもの。
かすがはその者の首を狙っているのだと、嫉妬に帯びた声音で話していた。
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