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今まで過ごしたはずの記憶を黒い視界に映していた。
クリッぷボード一面に貼られた写真のような思い出がそこにあるのに、それは磨りガラスのように霞んでしまっていた。
もう何度も繰り返した、自分の存在の詮索。
自分は雪華であり。
刀であり。
それしかなかったが、不思議と不安はなかった。
まるでつい先日生を受けたように、体はこれからのことを既に受け入れているようだった。
「あっ!アッー!」
そんなへんてこな少女の悲鳴と共に、真っ黒な視界が一気に開けた。
目の前に髪の束が落ちる。
「おぉっ?!」
「だだだ大丈夫!まだ修正きくからっ!大丈夫だょー雪華ちゃん!」
「…。」
少し離れた所で笑い声がする。それを聴いた雪華の散髪をする妖夢が気恥ずかしそうにうなり、震えるハサミが頭に同じテンポで当たる。
「そ、そういえば何か思い出せた雪華ちゃん?」
話題を変えようと、妖夢がきりだす。
「いや、何も思い出せぬ。さっきも考えておったが。」
「んー。ま、まあ百年くらい前のことだしさ。その…。こう言ったら不謹慎かもしれないけど、忘れちゃっててもしかたないよ。ずっと眠ってたんだしさ…。」
「むぅ…。」
「まあ、私はまだそんな長生きしたことないんだけどね…。でも、幽々子様も昔の事は忘れちゃったって言うし…。」
沈黙が続く
なにか話題を作ろうと妖夢が口を開きかけた時、
「まったく、情けないのう。私を産んだ親である匠の名も忘れてしまった。親不孝者じゃ。」
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