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居間から覗く中庭の枯れ山水はよく手入れされ、桜が積もり汚れることは一日として無い。
苔は淡い黄緑色で統一され、でしゃばる事無く持ち場についている。
こんな見事な中庭なのに、あまり目にする機会の無い者と、
あまり目に触れる機会の無い努力家が勿体なく思うが、妖夢のことだ。それでいいのだろう。
紫のつくったスキマから取り出された桐箱を、妖夢はどこか品のある手つきで開け、包装巾ごと刀を両手に取った。
「どう?」
「見事な長物ですね。」
「そうじゃなくて。もっと他に。」
「え?えーと…珍しいですね、長物なのに鍔なしなんて。」
「自慢しにきたんじゃないんだから。『何か』ない?」
「『何か』って何ですか?」
「おかしいなぁ、そろそろだと思うんだけどなあ。」
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「付喪神?」
「そ、長い時間をかけて物に命が宿るの。で、この刀がそろそろ覚醒するころだと思うんだけど、正直、さっぱりなんだよねー。」
「そんな…!じ、じゃあ何故こちらに?」
「貴女が魂魄妖夢だからよ。刀によく触れてるし、何か分かるかなーって。」
「む、無茶苦茶すぎますよ!こういうのは霊夢さんとかのほうが分かると思います。」
「この前紅い月が一週間続いたでしょう?それで妖怪に変化がないか調査に行ってるわ。もう、だからいつまでたっても[みょん]なのよ。幽々子に言われない?」
「う…時々言われます。私だって、銘ぐらいなら分かります!」
そう言うと、器用に刀を解体しはじめた。鞘から刀を抜く、と、
「うわっ!何ですかこれ!」血糊だらけ!」
「ああ、ちょっち汚れてるね。これって血なの?」
刀のあちらこちらにある黒ずみは、特に鍔の辺りに溜まり、バリバリに固まった物がしっかりへばり付いていた。すると妖夢は、
「研ぎます!今すぐ研ぎます!」
「え?後でいいじゃん―」
「―ダメです!今研ぎます!」
「あ、はいお好きに…」
言い終わる前に、妖夢は研き場へ走っていった。
「どこぞの閻魔様じゃあるまいし…。」
出された芋羊羹を口に運びながら紫は苦笑した。
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