1 桜花蒼天

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居間から覗く中庭の枯れ山水はよく手入れされ、桜が積もり汚れることは一日として無い。 苔は淡い黄緑色で統一され、でしゃばる事無く持ち場についている。 こんな見事な中庭なのに、あまり目にする機会の無い者と、 あまり目に触れる機会の無い努力家が勿体なく思うが、妖夢のことだ。それでいいのだろう。 紫のつくったスキマから取り出された桐箱を、妖夢はどこか品のある手つきで開け、包装巾ごと刀を両手に取った。 「どう?」 「見事な長物ですね。」 「そうじゃなくて。もっと他に。」 「え?えーと…珍しいですね、長物なのに鍔なしなんて。」 「自慢しにきたんじゃないんだから。『何か』ない?」 「『何か』って何ですか?」 「おかしいなぁ、そろそろだと思うんだけどなあ。」 | | 「付喪神?」 「そ、長い時間をかけて物に命が宿るの。で、この刀がそろそろ覚醒するころだと思うんだけど、正直、さっぱりなんだよねー。」 「そんな…!じ、じゃあ何故こちらに?」 「貴女が魂魄妖夢だからよ。刀によく触れてるし、何か分かるかなーって。」 「む、無茶苦茶すぎますよ!こういうのは霊夢さんとかのほうが分かると思います。」 「この前紅い月が一週間続いたでしょう?それで妖怪に変化がないか調査に行ってるわ。もう、だからいつまでたっても[みょん]なのよ。幽々子に言われない?」 「う…時々言われます。私だって、銘ぐらいなら分かります!」 そう言うと、器用に刀を解体しはじめた。鞘から刀を抜く、と、 「うわっ!何ですかこれ!」血糊だらけ!」 「ああ、ちょっち汚れてるね。これって血なの?」 刀のあちらこちらにある黒ずみは、特に鍔の辺りに溜まり、バリバリに固まった物がしっかりへばり付いていた。すると妖夢は、 「研ぎます!今すぐ研ぎます!」 「え?後でいいじゃん―」 「―ダメです!今研ぎます!」 「あ、はいお好きに…」 言い終わる前に、妖夢は研き場へ走っていった。 「どこぞの閻魔様じゃあるまいし…。」 出された芋羊羹を口に運びながら紫は苦笑した。
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