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「反応なし!」
「むむむ…なんででしょう…。」
珍しく帰りの遅い幽々子がそろそろ気になるのか、妖夢は時々外を見る。
「いや、絶対この刀なんだって!」
「別に疑ってませんよ。ですが本日はもう日も落ちてまいりましたし。藍さんも心配されますよ?」
「やだ!妖夢のご飯たべたい!」
「私は構いませんが…。その…。藍さんが既にそちらに…。」
紫が振り返ると、大きな耳形の帽子。藍色の衣。何よりも9本あるやたら柔軟性の高い狐の尾を持った少女が庭に立ち、妖夢と目が合うと丁寧に一礼した。
「さあ紫様、帰りますよ。年中朝帰りなんて勘弁してください。」
「ちぇー。じゃあ妖夢、刀はおいて行くから、なんかあったら霊夢に見てもらって。」
「霊夢さんですね。わかりました。」
「では妖夢さん、おいとまさせていただきます。幽々子様にもよろしくお伝えください。」
そう言うと紫は、半ば藍に引きずられるように空間の裂け目に消えていった。
「さてと…。」
妖夢は残された刀を手に取る。
魂魄家に代々伝わる家宝がある。短刀の白楼剣、そして長刀の楼観剣。
この楼観剣というのがなかなかの長刀なのだが、この雪華という刀はそれをさらに凌駕していた。
「どんな人が使ってたんだろう。」
そう思うと、不思議と誰でも振るってみたくなるもので…。
台所からおやつに食べるつもりだった白桃を持ち出し、庭に出て桃を外廊下の上に置く。
食べ物を粗末にするつもりはないが、林檎に矢を放つのが許されて、コレはダメということはないだろう。刀もしっかり綺麗にしたし。
何時もの間合い…から気持ち遠めに構え、滑らかにふりぬく。
嫌な手応えがした…。
損じた訳ではない。柔らかい部分と種を絶つ感触。そこまではいい。その後もう一つ手応えがあった。
廊下の柱を一本、半分辺りまで斬っていた。
「あっ…う、うわあぁああ!!?」
いくら間合いが違うといえど、このミスは剣士としてみっともないと、妖夢は半ベソで柱の傷を指で撫でた。
「柱の取り替え、萃香さんにてつだってもらわなきゃ…。」
やはり、扱うべき物は、扱うべき者の手にあるのが一番らしい。桃を食べる用に切るため、妖夢はしょぼくれた背中で台所に戻った。
「(思い出した…。私は切り裂く物…。断ち切る物…。)」
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