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「まだちょっと硬いですねぇ。」
綺麗に偶数切り分けた桃が今は奇数。全部食べたら太るかな?と、たいして太りもしないくせにそんなことを思う妖夢だった。
中庭の見える小部屋のふすまを開くと、思いも寄らぬ先着者に妖夢は桃でむせた。
「はぅわ!ゆ、幽々子!いつお帰りに?!」
足音は聞こえなかった。いや、そもそも妖夢の主であるこの西行寺幽々子は宙に浮いているので元々足音はしないのだが、普通に歩く事もするが、大概ういている。
「あ!いえこの桃は独り占めしようとかじゃなく!食前の果物が消化を―」
「妖夢。」
「はいっ!」
「庫裏から衣を、妖夢の浴衣か何かを持って来て。」
「え…?あっ!」
幽々子の視線の先。そこはさっきあの長刀を置いた場所。そこに見慣れぬ少女が裸のまま横たわっていた。
妖夢はすぐに分かった。彼女が目覚めたのだと。
妖夢は大急ぎで廊下をかけていった。
「この白玉楼で【生】を授かる、か…。命の誕生に出くわしたのは何百年ぶりかしら…。」
幽々子は一人そう目を細め、指の背で寝息を立てる白磁の頬をなでた。
桜花蒼天 END
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