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黒いすべらかな床を厚底の下駄が駆ける。
緊急の呼び出しだった。
いつもなら船に揺られて鼻唄を唄ってむこう岸を目指しているはずだった死神、小野塚小町は、上司の使者から事情を聞き、今、使者を遥か後ろに危機へ駆け付けていた。
「映姫様!」
「小町っ!」
死者の魂を裁く大広間の黒い壁は破られ、見上げるような裂け目から多数の死魂が、見えない壁を風船のように数で押す。
その前に一人立ちはだかり、深緑の髪のはかないほどか細い少女が、繊細な顔立ちを疲労で歪めながら一人で死霊の侵入を防いでいた。
少女がなにか叫ぶが、渦巻く死霊の悲鳴と叫びでかきけされる。
しかしやることは言わずと理解できた。
小町は自らの能力
(距離を操る程度の能力)で、裂け目と裂け目の距離をつめて穴を塞ぎにかかる、しかしはみ出た死霊が挟まり収束は停止する。少女が渾身の力で死霊を押し込み、すかさず小町は穴を跡形もなくしっかり塞いだ。
その直後、少女がよろめく。すかさず小町は抱き留め、見たこともないほど消耗した少女を見て息を呑んだ。
「誰か!早く映姫様を─」
「─私は…平気です…。」
青い顔で少女はそう小町を宥めるが、駆け付けた他の死神の用意した椅子に小町は少女を座らせた。
少女、四季映姫ヤマザナドゥは、幻想郷を担当する閻魔で、閻魔のイメージを根本から打ち砕く可憐な少女の姿をしていた。
しかしれっきとした閻魔であり、それに見合う力も、信頼もっていた。
「よく…駆け付けてくれました…。大変なことになりました…。早々に手をうたなければ…。」
「てっきり遅いと叱られると思いましたよ。細かいこたぁ後で聞きますから…。今は休んでください。」
渋々すみませんと小さく呟いた映姫を、また別のかけつけた死神がタンカに乗せて運んでゆく。
「さぁて…。こりゃしばらく鰻は食いに行けないねぇ…。」
小町は運ばれる映姫が見えなくなるまで見つめていた。
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