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「こりゃぁ…たまげたぁ…。」
老店主は目をみはり、曲がった腰を伸ばしながら思わずそう呟いた。
見上げるビル群の影にあるそのボロ小屋は、看板がなければ骨董屋とは思わないだろう。その玄関に立つのは、いつもの冷やかしではなく、この場に不似合いな可憐な美女であった。
微笑をたたえた白磁の肌に切れ長な瞳がゆらめき、
白地に紫の振袖に不似合いなはずのブロンドの長髪をうなじの上までたくしあげ、後ろでまとめていた。
「久しぶりにこちらへ来たので、少しおめかしを。」
柔らかく小首を傾げて見せた彼女に、店主は電車で店が揺れるまで見とれていた。
こちらへ来た、という事は、外国の観光客だろう。すると、日本好きな父や祖父への土産を求めて、といったところか。
「お嬢さん、日本語上手だねぇ。どちらから?」
「ふふ、よく言われるんですよ。これでも私、日本生まれですわ。上の名も、八雲、と申します。」
「へぇー!そりゃ失礼。わしゃてっきり…」
「この目も、この髪も、生れつきです。」
棚の影から出てきた彼女の顔は、とくに機嫌を崩すこともなくガラクタを見回していた。
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