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「タエちゃん!久しぶり。」
「は?どちら様で?」
「そっか…私よ。」
女性が髪を解くと着物の紫に映える黄金の滝のような長髪と共に、老人の曖昧な記憶を鮮明な思い出として蘇らせた。
「紫ちゃん!よくきたね、本当、貴女昔のまま。」
歳を忘れたような他愛ない会話が流れる中、店主だけが居心地悪そうに頭をかいて安堵の息を漏らした。
「約束の物を取りに来たの。貰える?」
「そりゃ、構わないけど…。」
「けど?」
そう言って店主の引き止める中、紫を店の奥に招き入れた。
紫も軽く会釈して自宅の様に上がっていった。
「なるほど。」
店よりも大きな倉庫の奥に避けて置かれた日本刀が一つ、140cmはあろう白手白鞘鍔無しの長物が睨み付けるような冷たい空気を放っていた。
「十年前頃からこれの近くでよく鼠が死んでたり、野良猫が泡食ってたりで、一応お払いとかしてもらっただんだけど…」
確かに、刀の四隅に貼られた札により、紫にしてみれば粗末で貧弱な結界が張られていた。
「霊夢が偉人に感じるわ…。」
無愛想な顔を思い出し、ため息を一つ結界の前に歩み寄り、扇子を一ふりすると四隅の札が蒼炎を立てて消えた。老人も、とくに驚きもせず、事の行く末を見守った。
着物の袖で刀を持つと、貼られた札をシールか何かの様に一気にはがす。しかしシールのように少し残り、爪で引っかきながら、「うわ、だっさー。」と自分に突っ込み、笑うタエを振り返りはにかみながらVサインした。
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