ある日の永遠亭

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「いたたたた……落とし穴まであったとは……」 「これなら体重の軽い兎達は引っかからないからね」  声のする方を見ると先程の兎がニヤニヤしながら私を見下ろしていた。  やっぱり今回も駄目だったか。最後の最後で油断した。 「ははは……」 「何だお前、罠に引っかかって嬉しいのか?」 「そんなことはないはずなんだけどね……」 「ふーん。まぁいいや」  そう言ってまた手を差し出してきた。 「ん?」 「ん? じゃないだろ。さっきは友達を助けてくれてありがとう。今日は助けてあげる」  ああ、確かそんなこともあったな。  …………。  私にも守るべきものがあるように、この子にも守りたいものがあるのかもしれない。月での戦いもこんな終わり方に出来たならどれだけ幸せだったのだろう。私はそんな想いを胸に差し伸べられたその手を強く掴んだ。  もし……、もしあの時。私が逃げさえしなければこんな結末もあったのかもしれない。  落とし穴から救出された私は目の前の兎に尋ねた。 「あなた名前は?」 「名前を尋ねる時は自分から……って、まあいいか。あたしはてゐ」 「私はレイセン。いや鈴仙」 「どっちも同じだろ」  私たちはお互いの顔を見合わせて笑った。戦いの後だというのに清清しい。――ああ、そういえば。 「ところでこの辺に夜羽草って生えてない?」 「ああ、それならこの近くだ。摘んでいってもいいよ」  これでお師匠様のおつかいも無事終了、っと。 「夜に使うと羽が生えたように体が軽くなることから夜羽草っていう名前だったかな? 何に使うんだ?」 「たぶんだけど飛べる薬だと思う」  てゐの話を聞いて、お師匠様の部屋に『トベるクスリLV宇宙』と書いてある瓶があったのを思い出した。 「それはなかなかに興味深いな」  そしてこの子は何でこんな悪そうで楽しそうな顔をするのだろう。
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