ある日の永遠亭

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 と、いうわけで永遠亭を出発した私。お師匠様の最後の言葉が少し気になり、自分の部屋から昔使っていた三寸(約九十センチ)程の長さの銃を護身用に持ってきた。あまり使いたくはないが脅すだけで済むならそれでいい。  そして左肩に小さな小物入れ、右肩に先程の銃を携えて、お師匠様から渡された紙に書いてある場所へと向かって私は歩み始めた。この紙にも書いてあるように、どうやらこの薬草は竹林の中に生えて、しかも夜にしか姿が確認できないらしい。  だとすれば朝日が昇らないうちに早く見つけよう。私は空に浮かぶ月を眺めながら一人竹林へと姿を消した。  先程より暗い竹林の中。といっても私の眼には昼間の明るさより夜間の暗さのほうがよく見える。妖怪とはそういうものだ。  しかしそんな私の目を持ってしても一向に目的の薬草は見つけられなかった。 「はぁ……」  深く溜息を吐いた。その時だった。私の周りは先程と同様に静かだが、私の『物事の波を操る』という能力ではしっかりと確認できた。 「誰か……いる」  この波長は私の知らない者の波長だ。しかし似たような波長なら知っている。相手をただ倒すことを考えた波長――敵意の波長。私は静かに銃を構えた。そしてその銃を空に向けて私は引き金を引いた。夜の竹林に銃声が響き、火薬の匂いが広がる。  威嚇射撃のつもりだったがこれは間違いだったのかもしれない。先程の敵意が更に強くなるのを感じた。 「逆効果だったか……」  先程の発砲がバトル開始の宣言となってしまったようだ。不意に月でのことが頭を過ぎった。あの時は逃げた私。でも、今度は……、今度だけは――。  誰かがもう一度私にチャンスをくれるというのなら――私は大切な人を守るために戦う!
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